●『スキルベース組織について』

        (株)スキルスタンダード研究所 代表取締役社長 高橋 秀典

DX時代に勝ち残るには、ビジネスモデルの変革や新規事業創出を実現する必要があります。そのための人材の育成・獲得が企業にとって喫緊の課題です。欧米では「スキルベース組織」への移行が始まっていますが、進みつつあるジョブ型制度との整合も含めどのように対応していくかも重要です。それらを前提として、スキル標準を活用したDX人材の現実感のある見える化、人材獲得や育成・リスキリング、公正な評価につながる仕組みについて説明します。

年功序列型組織・ジョブ型組織とスキルベース組織の違い
 年功序列型組織・ジョブ型組織は、仕事(職務記述書)ありきで、人材を役職・役割や肩書きで管理します。一方、スキルベース組織は、持っているスキルに基づいて、その時々のプロジェクトや課題に最適な人材を組み合わせ、仕事を割り当てる仕組みを持つ組織です。

 これは、「役職や部署の枠」よりも、 「スキルの可視化と活用」によって柔軟に人材を動かす組織運営を目指す考え方になります。DX推進や変化の激しい市場において注目されており、欧米では取り入れる企業が増えています。

 このモデルでは、タスク(機能)を細分化し、個々のスキルとタスクをマッチングさせることで、人材の採用、配置、育成、評価など、人材マネジメントのあらゆる側面でスキルを軸とした意思決定が行われることになります。

スキルベース組織のメリット
 スキルベース組織のメリットとして、次の4点が考えられます。

①柔軟な人材配置と活用
 従業員のスキルを基準に、プロジェクトやタスクごとに最適な人材を柔軟に組み合わせることができ、変化するニーズに対応しやすくなる。

②イノベーションの促進
 多様なスキルを持つ人材が協力しやすくなり、新たな視点やアイデアが生まれやすくなるため、組織全体のイノベーション力が強化される。

③リスキリングと成長機会の拡大
 従業員は自身のスキルを明確にし、必要なスキルを自主的に習得するためのリスキリングや学習機会が増え、キャリアパスも広がる。

④効率的な人材マネジメント
 スキルの可視化とマッチングにより、採用・配置・育成・評価といった人事施策がより的確に行われ、人材の最適な活用が期待できる。

ジョブ型 / スキルベース型 ハイブリッド組織
 スキルベース組織はプロジェクトや課題に対して柔軟に対応できる反面、基幹システムなど安定的な運営を求められるものに対しては、その効果が期待できません。

 そこで、ジョブ型、スキルベース型のハイブリッド組織が考えられます。
これは、「会社の土台はジョブ型で安定を確保し、変化対応はスキルベースで柔軟に動かす」というもので、 両者を組み合わせることで「安定性と柔軟性」を両立させることが可能です。

・ベースはジョブ型(安定軸)
 社員に「基本的な役割(職務範囲)」を与え、達成度は役割り貢献・成果で評価。
 採用・等級・給与の基準として活用
・プロジェクトはスキルベース型(変化対応軸) 
 プロジェクトごとに必要なスキルを定義し、社員のスキルマップとマッチング。
 既存ジョブの枠を超えて、スキルが活かせる場を与え、将来価値・潜在能力を評価

 ハイブリッド組織にすることによって、経営側は安定した制度の上に変化対応力を持て、人材の潜在力を発掘することができます。社員側からは自分のスキルが社内外で認められやすく、キャリアの自由度が増し、キャリア開発意欲を刺激することになります。
 また、組織の面からは、新規事業・変革プロジェクトに最適人材を素早く動員することが可能となります。

 進みつつあるジョブ型制度との整合も含め、この流れにどのように対応していくかも重要です。スキル標準を活用してスキルベース組織を構築し、人材獲得や育成・リスキリング、公正な評価につなげていくことが最も効果的な施策となります。