●『スキル標準の歴史とiCD & ITSS+ ~その4』

        (株)スキルスタンダード研究所 代表取締役社長 高橋 秀典

【iCDの限界とITSS+】

昨今はDX推進の必要性が明らかになりつつあり,過去の延長線上にはない世界も見えてきました。
一方で、現状の活動は問題なく守り継続し続けなければならない、ということも事実です。
以上を踏まえ、今後は単なります見える化だけではなく、戦略的にiCD、ITSS+を活用する必要があります。

iCDは、タスクディクショナリの構成からウォータフォールを基本としていることがわかります。
その一点で、アジャイルなどを主体とするDX技術に対応するのは難しいことになります。
筆者が現在のiCDの基本構造を作ったのは2004年ですが、その当時はタスクをファンクションと呼んでいました。
まさに、機能として定義していたということです。
システムなどを設計する場合、機能的には「設計」と表現できます。
しかし設計と一言でいっても、業界が異なるシステムの設計、バッチ系システムの設計、Web系システムの設計、
データ構造の設計、そしてDX関連でいうとAIを用いたユーザ向けのクラウドシステムの設計など多種多様です。
設計の前にそれぞれ修飾子をつけると識別できますが、機能的には「設計」に変わりはありません。
特にDX技術について同じように表現すると、いわずもがなミスリードにつながり混乱する危険が大きいことになります。
これらのことから、今後のDX推進に向けた人材戦略に対応するには、iCDだけでは不十分だということが明らかです。

先に述べたようにタスクはコンテンツの特徴としてウォータフォールに見える構成になっています。
3スキル標準、特にUISSの考えを基にしていることからも、その形態になっているのです。
このように、iCDのみの活用では機能的表現の混乱だけではなくて、DXの主流であるアジャイル開発がうまく表現できないことになります。
無理やり表現しようとするとウォータフォールのタスクと同じような定義となってしまい、
アジャイルの機能が埋没してしまうことにもなりかねません。
これらの状況を回避するために、DX推進用として別途定義するのは自然な流れだと言えます。

経済産業省、IPAが「ITSS+」にDX推進の活路を見出したことには拍手を送りたいと思います。
ネーミングに関しては賛否が分かれますが、従来のITスキル標準とはまったく別物になっています。
ITSS+は、ITスキル標準の職種の横に並べるようなものではないことを、十分に理解する必要があります。
また、iCDのタスクの中にデータサイエンスやIoTが定義されているが、これはiCDとして一体化しているのではなく、
新たに「領域」などを設けてウォータフォール系の他タスクとは一線を画してあり、その使い方も異なります。

ITスキル標準からiCDに至るまでのスキル標準の基本的な考え方は、
従来のコスト削減やビジネス支援を主体とした守りのIT投資を基本としています。
対して今後必須になるDX推進は、売り上げ・付加価値向上などの攻めのIT投資が重要となります。
スピード重視や、ビジネス部門が中心になること、またパートナーも一体となる組織化などに重点が置かれることになります。

DX推進に関して言えば、出来上がったコンテンツでタスク遂行力チェックやスキルチェックをして、
ギャップから育成計画を作成していくような代物ではないということであり、
そういった従来の方法にこだわっていては、DX推進に向けて有効な手は打てないということになります。
今後はDX推進を睨んで攻めのIT投資を部分的にもスタートしていくことが重要だと言えます。

~その5につづく 次回はiCD、ITSS+の使い方について説明します。